変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

舞台『Zoo-Z』を観に行きました

どうも、超お久しぶりです。
ちょっと転職からの再転職の後、新しい職場の環境整頓するとに三年くらい使ってました。
その上コロナなんてウィルスが流行して気分の滅入りっぷりも凄くて…

ということで、そんなウィルスの流行にも負けず、上演された舞台についてご紹介したいと思います。

 

stage.zoo-z.com

 

ざっくりと舞台の概要を述べます。

化人と呼ばれる、猿以外から進化した人間以外の人類が存在する世界。
化人達は基本的に人間(以下ヒト)に存在を悟られないように生きている(知られることに強い拒否反応があるらしい)。
巡査長の新城は上司を殴ってしまった後、何故か警視庁へ異動になります。そこは通称動物園、化人関連の事件を解決する、化人の集まる部署だった。

というのが概要です。
この化人という人類の特性が面白い。
まず元になった動物(本性)の持つ特性を引き継いでいることがあって、人より生命力が高い、力が強い、目や鼻や耳がいい、夜目が効きやすい等、基本的に人体の範囲を出ない範囲で能力が強化されていることが多いようです。
もちろんそれは個人差が大きく、ほとんど人並みという人もいたり、逆に結構動物寄りの人もいたりとまちまちです。
また、化人同士はお互いになんとなく化人であることを察知でき、かつ鼻が良かったり、同種、近縁種の場合は「あれはネコ」「イヌ」などの判定ができます。

こういった側面から、化人は1万人に1人と言われながらも、互いに近い場所にいたり、交流の場所を持っているようです。少なくとも舞台ではその様子がありました。

一方で、その化人の特徴はデメリットも多いです。
というのも化人はその性質からヒトと血が交わっていることが多く、ヒトの両親から化人が生まれたり、化人の子がヒトであるケースがあるようです。また、兄弟であっても片方がヒト、片方が化人というケースがあり、舞台でもそういった姉弟の様子が描かれていました。
また、化人の子供は自分がヒトとは違うという自覚がないため、ヒトの社会に馴染めないことがあり、そのためにトラブルや孤独感、家においてはネグレクトや離別、不理解といったネガティブな状態を引き起こすことがあります。大人になるまでに折り合いがつくもの、ということらしいのですが、結構それ根深いですよね……
さらに、化人の特徴が強く出ている場合には奇行や暴力行為などにも走りやすいようなので、不安定である状態を長く過ごすことになります。

さらに、最も大きなデメリットとして、滅多に起こらないとされている「アンスロック(アンスロ)」という状態があります。化人が本性の姿に近づいてしまう症状で、その症状によってより力は強くなりますが、知性の低下、言語の喪失などが発生し、より本性の特徴が肉体の上に現れやすくなります。最終的には本性の動物になってしまうとのこと。

という聞いただけでワクワクの世界観なのですが、残念ながら舞台上では動物が現れることはありません。それはまぁそれです。舞台なので。
どちらかというと、本性を隠して生きる獣人のような人々の、いかに人を保っていくか、ということの方が面白い作品でした。

作中に色々と楽しい要素があったので、以下ネタバレ込みで書いていきます。

 

 ここからはストーリーをほとんど喋っています。

主人公である新城は、ある日突然、警視庁生活安全総務課 生活安全対策特別捜査隊に配属されます。先にも述べた通り、新城はある件で上司を殴ってしまった後に異動となりました。
移動先の新しい課は警視庁の奥の奥にある妙な課。そこで「肉食獣」「ネコ」などと呼ばれ、首を捻る新城。
新城は少し前に急に化人として覚醒した後天性の化人です。これもアンスロックと同じくらい珍しい状態で、新城はたまたま同じ現場にいた化人に発見され、異動先で初めて化人の存在を知ります。
同捜査隊は「動物園」と呼ばれていて、メンツは一人を除いて全員化人。一人だけのヒトである加藤は妹が化人であった(作中では死別している)という経歴により、本来ヒトでは知り得ない化人について知っています。

この紹介中だけでも、雨でやる気が出ないバーバリライオンの化人、藤堂が大きな口を開けてあくびをしたり、ミナミゾウアザラシの仙波がアザラシのように拍手をしたり、ニホンイシガメの川田が常にカメのように足をがに股に広げて腰を落としていたりと、わかりやすいアクションがあります。
ホンドタヌキの山田はあまりそれっぽアクションはないのですが(本人がムジナだ!とかタヌキであることを嫌がっているからかもですが)、タヌキ寝入りで真に迫った気絶をするシーンがあります。

そこに投げ込まれた新城はブチハイエナの化人でした。ぶっちゃけブチハイエナ感はないです。ブチハイエナといえば強い咬合力、ヒヒヒ、ヒャハハ、と聞こえる笑い声のような鳴き声、お尻の落ちた体型、オス化しているメスといった特徴がありますが、どちらかというと新城は本人の特性から非常にイヌっぽい。後天性であるために特徴が多く出ないのかもしれません。

登場人物達はそれぞれにキバタンという喫茶店を中心に様々な人に出会います。
キバタンは名前通りキバタン(オウム)の化人のマスターが経営する店で、新宿周辺の化人が交流の場として利用しています。そこには店員のミーアキャットの少女、虎狼会というヤの字の若頭のジャーマンシェパード(なんで家畜が出て来るのかだけはめっちゃ疑問です)、サーバルキャットとチンチラとヒトの大学生、オルカをリーダーとして、セグロジャッカルとヒトのつるむチーマーのような青年達、怪しい風体の子連れのコドモオオトカゲ、どちらも家出中のラーテルの少年とノドグロミツオシエの少女、そして動物園の藤堂といったメンツが出入りします。
また、大学生のヒトである嶋村は、チーマーのセグロジャッカル、シンジを放って置けずに声をかけ、それをきっかけにしてか他の二人から化人についてのレクチャーを受けます。
一方、チーマーのヒトであるハヤテは、姉である新井がザーネンの化人であり、かつ本性が強い状態であることから、奇行を起こしやすく、引っ越しが多い少年期を過ごしたことで、今のチームに愛着があるのか、非常に懐っこい様子でありながら、姉に対して拗ねた性格になっています。

そういう比較的穏やかな人々に襲いかかる静かな脅威が、イリュージョンと呼ばれる薬物でした。それは「進化を操作する」という名目で売られており、中には「ヒトに近づける」というようなことを歌ってもいたようです。
登場人物の化人の中には、化人の特徴を煩わしく思っている人物もいます。先程のハヤテの姉は、「普通にしてくれ」というハヤテの恨み言から普通になることを願っていました。同時に、化人としての人生に疲れて、本性になることで人生から解放されるという思考もあるようです。実際、オープニングで少年だった新城は、テレビを見せてくれるお姉さんが、薬を飲んだ後飛び降りて、猫になっていなくなってしまったのを目撃していました。
そのイリュージョンは、最初は都市伝説のように静かに広まり始め、やがて大陸系と思しき黒服達によって新宿を蝕み始めます。
動物園と虎狼会はアンスロした化人の事件として、チーマー達は仲間(セグロジャッカルのシンジとザーネンの新井)がバイヤーとの接触があることを通して、家出の少年少女は生きる術としてバイヤーを引き受ける形で、それぞれ関わりを持つことになります。
イリュージョンは効果がマチマチのようです。一部ではアンスロを引き起こす薬物であるため、「ヒトに近づける」という部分で飲用した化人は、意図せずして全く真逆の状態に陥るわけです。

そして、その効果がマチマチであることから、思ったような効果のでない焦りのために、黒服達は無差別に化人を誘拐し、イリュージョンを投与することを始めます。

イリュージョン自体はコモドオオトカゲと、その連れている子供、オポッサムによる発明品を流用したものでした。彼らは既に千年を生きている不死の化人であり、死ぬ方法を探しています。その一端で作成されたある物質を、黒服の化人達に渡したことが発端でした。
ただ、状況としてはコモドオオトカゲの亜久津、オポッサムのオサムとも望む状況ではなかったため、藤堂に対し、誘拐された化人の居場所を教えます。

どこかの倉庫に閉じ込められていたのは、ラーテル、ノドグロミツオシエ、セグロジャッカル、ザーネン、ジャーマンシェパード、ミーアキャットでした。ノドグロミツオシエの少女ちいだけは隠れていたので難を逃れていましたが、他のメンツは既にイリュージョンを投与されていました。
ちいはジャーマンシェパードの持っていた緊急用の電話を新城に(街で声をかけられた時に電話番号をもらっていました)かけようと必死になりますが、倉庫が半ば電波暗室状態で電話ができず、必死に駆け回ってなんとか電波を捕まえ、新城に電話をかけます。が、ちいは黒服に銃で撃たれてしまいました。
ちいの電話を受けた新城と、亜久津から場所を聞いた藤堂は動物園の面々と黒服達のところへ乗り込みます。

動物園の面々の超かっこいい殺陣が本当すごくて最高でした……グッドすぎるんですわ……

最終的に全員救出されます。一応アンスロは起こさずに済んだようですが、シンジとちいは目を覚ましません。

それぞれに関係性がまた深いのですが、中でもオルカのカオルとシンジの関係はなかなかこう…文字面からしてエッこれはカオシンですか…?と一瞬疑いたくなるようなところがあり(シンジが生活のために身体を売っている(!)のですが、カオルが「俺が毎晩買おうか?」と提案し、シンジが「カオルの好きはみんなに向けられている、俺だけじゃない」と拒否するシーンがあります。なので筆者の目がBLフィルターを持っているとかそれだけではないことは先にお伝えしておきます)、かつシンジは嶋村と一緒に「海も山もあって、違う風の匂いが感じられる嶋村の故郷である山口県」に行きたいと思っています(そして嶋村も一緒に行こうとプランを練っていました)。
また、ザーネンの新井とヒトのハヤテの姉弟の会話で、「私だってこんなの嫌だよ、服着るのが嫌だったり、夜、目が光ったりする。普通になりたい」という会話がありました。新井は化人の中でもアンスロに限りなく近い状況が既にその身に起こっていて、それを上手くハヤテに伝えられず、またハヤテも拗ねてしまっていたために、逃げ場がなくなってイリュージョンにすがっていました。
ラーテルのテルは父親が議員であり、授業を受けられない、暴力を振るうなどの素行が問題となっている(のをもみ消されている)ことがわかります。頭もいいのですが、おそらくそれゆえの疎外感から父親を殴って家出をしているのだろうと想像できました。
ノドグロミツオシエのちいは親がおらず、施設にいることを利用されて、万引きの主犯として通報されかけます。そこから逃げ出してきてしまったので、帰る場所がない状態です。
そのテルとちいが、主にテルが暴力などでちいを助けて行く様子は寄り添い愛でしたし、ちいがその本性らしく居場所を教える活躍をするところは胸が熱くなります。
ミーアキャットの麻里も化人故の疎外感や周囲との折り合いの悪さから一度補導されており、藤堂によってキバタンで働くようしむけられました。キバタンのマスターがめっちゃ笑顔の優しいお兄さんでそりゃー心も和んじゃうよね…ってなります。

こういった人間ドラマの中に、その動物っぽい特徴が盛り込まれているので、すごいグッときました。
オルカのカオルが殺陣の立ち回りで胸から相手にあたりに行くシーンがあるのですが、キャストである鮎川太陽氏は188cmの長身かつ、なかなかがっちりした体格をしているので、本当にシャチさながらのアタックに見えて色々キュン死しました。あと単純に足も長いので殺陣で振り回されている足の長さにドキドキしてしまいましたね…

あとアンサンブル(脇役の方)も含めて「顔がいい」しかいなくてすごかったです。

個人的に山田(ホンドタヌキ)の反橋宗一郎さんと、仙波(ミナミゾウアザラシ)の松下軽美さんがめちゃくちゃ可愛くてニヤニヤしちゃいましたね……

 

以下は、妄想込みの感想です。若干非人道的な側面の話もあるのでちょっと注意。

 

まずイヌの化人がいることについて。
まさかまさかなんですけど、例えば、例えばですよ、化人のルーツに、「本性の動物と結ばれて子供が生まれた化人」がいるとしましょう。
例えばですが、化人はヒトと交雑してきた歴史があります。その手前には化人が化人であった時代があったことも想像つくわけです。なので、ジャーマンシェパード成立(1899年)後にジャーマンシェパードのオスと交配されたイヌ系の化人がいて、その子供の中にジャーマンシェパードの化人が生まれる可能性は十分にありますよね。
ちなみにザーネンも家畜なので、同様の手段が取られた可能性は十分あります。
あとこれについては女性の化人が酷い目にあってる可能性が高くて(母体側に肉体が引き継がれる可能性が高いと考えています、つまりメスのシェパードをオスのイヌの化人が妊娠させたらシェパードの子供が生まれるのではないかなぁと)、人道的な意味でOh……となりそうです。

またこれは同行者と話してたんですが、アンスロック状態の化人をゆっくり本性に変化していくのを世話するシチュエーションとかもあったら最高ですよね。
だんだん人の意識を失っていく家族や友人や恋人を世話して、最後にはペットにするか動物園に譲らなければいけないのをわかっていて、まだ今日は話せるな、とか、名前が言えなくなったな、とか思いながら世話してたら心が……情緒が乱れそうで最高ですね……。

ちなみにアンスロ発症者の収容施設があるとのこと。同行者とはPSYCHO-PASS時代も付き合いがあったので、「収容施設に入れられてるのヤバ」と言ったら、「全体的に白いクッション材の部屋じゃないですか」と返されました。多分最終的に動物園やペットショップに運べるように稼働できる檻とかに移されているんだろうと思うと身悶える思いです。人権の喪失。

あと不死の化人の二人は、今回出会った人々も見送ることになるんですよね。
特にオサムは、子供が成長しない、ということを怪しまれないために非常に早いペースで居住地を変える必要があります。亜久津は10年くらいが限界でしょうか。
今いる場所に戻って来るのは100年後、とかいうことにもなりそうです。
二人とも居場所は持てないし、オサムに至っては容姿が子供であることからやりたいことができない(働けないのでお金に困る)などの障害が多すぎてめっちゃしんどそうですね。

あと個人的に、藤堂の婚約者がヒトであったことは非常に良かったです。火災で亡くしてしまっていますが、化人であることを隠していた藤堂に、「なんとなくわかってた」「礼央くんは飛べる、助かるでしょ」と逃げるように最後まで促していて……愛だなぁと思いました。

 

一応クロスメディアコンテンツらしいので、今後コミカライズやノベライズ作品が出て来ることを熱望します。
いいコンテンツに育ちますように!