変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

『ミュートスノート戦記』の科学力が欲しい

私の厨二心をビッシビシにドツいてきていたこの作品。
なぜか知名度が低いのでここで紹介したいと思います。
どうも、『ミュートスノート戦記』シリーズ全5巻の紹介をしたいと思います。

ひとまずamazon

www.amazon.co.jp表紙から行って90年代感がありますね。
うろおぼえかつざっくりしたあらすじ。
主人公の穂村響は高校の文化祭の折に焼きそばの屋台を出していた。それをじっと見つめている少女が客かと思い声をかけるが、彼女は金がないといって立ち去ってしまう。彼女を追った先で奇妙な男達に襲われ、少女の代わりに銃で撃たれます。
その時に受けた痛みがこの世のものとは思えないもので、やがて響は気を失います。銀河のイメージと共に。
友人に見つけられた響は撃たれたはずの傷がないことに驚きながら、不思議な経験をした、と生活を再開しようとしますが、再び不気味な男達に襲われます。彼らはカマキリやサソリ、その他の生き物と人間を混ぜ合わせたような姿で襲いかかってきます。
その時響は異形の獣、ミュートスノート・アルファ(のイレギュラー形状)に変身し、それらの異形達に立ち向かうのでした。

 

と、本当ざっくりこんなところなんですが、実際入りはこんな感じで「おっヒーローものかな!?」と思わされるんですが、実際めっちゃくちゃ暗い
文字が太くなっちゃうくらい暗い。とっても暗い。ずーっと暗い終始暗い
ついでにエピローグまで真っ暗に暗い
まず主人公の響はミュートスノート・アルファであることを親友の滝沢聖也と志木スカーレットだけに明かしている状態で、異形とはいえ人間を殺したことに罪悪感を感じて自殺しようとします。
聖也によってそれを留められた後、自身と周辺人物を守る為という名目のもと、率先してアルファに変身するように仕向けられます。VITALIZE(ヴァイタライズ)という言葉と共に脳裏に渦巻く銀河を掴むイメージをすることでスムーズな変身を叶え、さらにその状態での肉体の動きになれる訓練をします。
そこからミュートスノートや人間兵器のヒントを得る為に訪ねた先で巻き込む形でその研究者を死なせてしまったり、
その家族の姉妹を救っていたにも関わらず人殺し扱いされたり、
文化祭で出会った少女と瓜二つの少女に出会ったらその父親が何を隠そう人間兵器を売ってるZAMZAという人間兵器商会の偉い博士だったり、
その少女に恋しちゃったり、
協力者の女の子の世話になった人が裏切ったり、
クラスメイトが人間兵器だった為に丁寧に殺さなければならなくなったり、
文化祭で出会った少女DC(ディーシー)がデッドコピーという肉体機能移植用に全く違う人間に他人の情報を上書きしたものだったり、
DCが死んだり、
恋した少女のお父さん殺したり、
ZAMZA側から仕向けられた刺客が姉の親友だったり、
ZAMZAの動きを監視していた別の組織のエージェントが姉の親友だったり、
右手から徐々に元に戻れなくなったり、
最終的に愛しくて仕方なくなっていた普通の高校生という生活を全て捨ててZAMZAの戦いを選ぶことになったりします。

と、暗いところばかりを強調してしまったんですが、
見所は「形態形成場」という要素です。
作中ではショウジョウバエとシジミ蝶で例えられていました。遺伝子や含まれる情報はほぼ同じなのに、形態形成場での発現形状が変わると別の生き物としての形質を獲得するという要素…だったはず。
つまるところ、上記のあらすじに出てくる異形の敵や主人公は、特定条件下に置いて肉体にすでに発生している形質を別の形態形成場で再発現させ、例えば腕をカマキリのカマに、肉体の質量の一部を新たな腕に、という形で質量保存の法則の範囲で別の形になる、という結構科学的にありえそうなアプローチなんですよね。
形態形成場自体はシェルドレイクという人物の心理学のアプローチの中にもあるようなのですが、それとは別物ですね。

途中に出てきたクラスメイトですが、彼女は猫科人間兵器というものです。他の蜘蛛やカマキリ、コウモリといったはっきりした特徴を発現させるための形態形成場の移植などはコストが高いらしいのですが、猫科、犬科といった大枠にしておくと発現する形に幅があっても大丈夫、みたいなことになるようです。もうちょっとケモい顔でもよかったのよ。
そういう情報移植の形でTFできるっていうのはなかなか面白かったです。
デッドコピーはその逆で、どこかで捉えてきた身寄りのない少女に別の少女の形態形成場を発現、その後本人の原型を持った形態形成場を消去するという手を使っています。
それをなんで人間兵器に使ってくれなかったんだ。

また変身の際に結構痛そうな擬音がほぼ毎回用意されていて、ぐぎりっとかぼきっとかいう。逆に猫科の方はさやさやさや…とか静かな感じ。そういう差も描かれていて、読みながらなかなか痛そうで顔をしかめたりもしたものです。

とかく、人間兵器については妄想の余地があり、全体がシリアスで切ないシナリオ、科学的なアプローチ、そして5巻というまとまりの良さからかなりオススメできる作品だと思っています。