変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

『アーサー王の世界』1 大魔法師マーリンと王の誕生

どうも、今回は『アーサー王の世界』シリーズから『大魔法師マーリン』です。
昨今のFGOブームでついには安室奈美恵さえ超えてしまったマーリン。私もマーリン課金だけは人になかなか言えない感じの額です(とはいえ友人曰くそうでもねえよとのこと)。
ゲームプレイしている方も多いと思いますが、あのお花のお兄さんの非人間っぽさ、実際にはどういう感じで語られていたのか?ということを書籍から読み取っていた末、私はタイトルの書物と出会うことになり、そこでマーリンが変身の名手であることを知ったわけです。
児童向けなので大変読みやすいので、あの分厚い『アーサー王と円卓の騎士』はしんどいなぁ…という方はこちらをオススメします。

 

www.sayzansha.com

ハリーポッターとかの翻訳版の会社だけあって、なかなか装丁とかもいい感じです。

 

ざっくりとあらすじを。
その昔、ブリテン諸国が各々一つ一つの国で日々が領地の奪い合いとサクソン人による略奪との戦いだった頃、ある村の娘が夢の中で中性的で見目麗しい青年と交わります。夢魔と交わったことを両親に告げますが相手にされません。しかし彼女は無事出産してしまい、両親は娘が悪魔と交わったのではと恐れ、生まれた子供共々ある教会へと追いやってしまいます。その教会の司祭は娘を匿うことができない為、息子を残して修道院へ向かうよう指示しました。母は尼僧となり、マーリンは両親も知らないままに育ちます。
ある時、司祭はマーリンが一人留守番をしているところに帰ってきた折、窓からそっと覗き込むと、甲虫が一匹部屋を飛び回ってから、やがて居眠りをするマーリンの姿に戻るのを見てしまいます。司祭はおそらく夢魔の子供である為、眠っている間に夢魔の才能が開花したのだろうと考え、本人に告げないことで夢魔としての己を知ることがないようにしました。
しかしマーリンは既に自分がそのような力を持っていることを自覚しており、司祭が見逃したということはどういうことかを考え、こっそりと一人で様々なものに変身してその技を磨きます。
変身にはある程度制限があり、半日ほど鷲になって飛び回っていてしまうと、自分が今何をしているかがわからなくなりかけ、慌てて住処に戻る、ということもしています。そうして自分の変身の範囲や制限を理解した上で、マーリンはその能力を様々に活用していくのでした。

 

という我々向けのあらすじはこんなところです。
その後のマーリンはサクソン人を雇ってブリテンの多くの範囲を支配したヴォーティガンに、生贄として予言された「父親が人間ではない子供」として呼び出され、人柱にされようというところで、大人に向かって「本当に君達はどうしようもないな」みたいなことを言い放ち、城壁(塔)が地震で高く積み上がらないのはこの下に竜が眠っていて、城壁の重みで地面が下がると竜に辺り、眠っている竜が身じろぎするからだ、と告げます。そして実際に地面を少し掘っただけで二頭の竜がたちまち穴を広げて飛び出し、赤と白の竜は喧嘩を始め、最後には赤い竜が逃げていくのを見届けます。
マーリンはこの二頭の竜を何かの予兆と考え、それはサクソン人とブリトン人だったり、ヴォーティガンとユーサー・ペンドラゴンであったり、あるいはアンブロシウスとユーサーになったりと様々な考察を重ねます。
やがてマーリンはアンブロシウスとユーサーの納めるブリテンの要人となり、その視点はいつしか人間の上の次元を見つめるものとなっていく、というお話です。

 

非人間的になっていく過程を大変読みやすい文章と解説で展開してくれますし、現代口語訳なので言葉がわからなくて詰まる、ということも少ないです。
最後にはなんとなく、歴史を作る歯車か線路のような様相です。ブリテンを栄える国にする、それ以外は些末であるとばかりの態度はなかなかどうして惹かれるところがあります。

ということで、『アーサー王の世界』1 大魔法師マーリンと王の誕生でした。