変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

『魔女がいっぱい!』ロアルド・ダールとジム・ヘンソンのシニカルな変身

ジャイアント・ピーチ』『チャーリーとチョコレート工場』が記憶に新しい方もいらっしゃることと思います。『ファンタスティック・ミスターフォックス』をご覧になった方もいるかもしれません。
この映画たちはもともとロアルド・ダールというイギリスの小説家による児童向け文学作品が元になっています。
彼の作風はシニカルなファンタジーです。
まず第一に主人公はなにがしか不幸です。私が読んだ範囲が小さいので確実に、とは言えないのですが、少なくとも『ジャイアント・ピーチ』『チャーリーとチョコレート工場』『ファンタスティック・ミスターフォックス』はいずれも主人公に何らかの災厄があり(両親不在や極貧、敵の出現など)、その解決のための奔走します。最終的に上記の主人公たちは新たな家族の獲得や、安定した生活を手に入れますが、失うものもあります。尻尾とかね。
中でもシニカルで、しかし穏やかな終わりを迎える作品と私が思っているのが『魔女がいっぱい!』です。原題はThe Witches、マペットと特殊メイクの大御所であるジム・ヘンソンによって映画化されています。

大枠として、主人公の一人称であり、魔女というものが全てハゲなのでカツラを被り、手に爪がないので手袋をしているという話や、子供を怖がらせるための、魔女はすぐ近くにいるかも、という出だしから始まります。両親が事故死した主人公はヘビースモーカーのおばあちゃんに引き取られることになります。遠方なので引き取られて移動の際に、一晩ホテルに泊まると、そこで魔女の集会が行われていて…という感じです。
主人公は当然のように魔女にニオイで嗅ぎつけられた上、ネズミに変えられてしまいます。その際先に性格の悪いブルーノという少年がネズミにされ、それから主人公、という順です。この対比がジム・ヘンソンによってなかなかおかしみのある対比をされているので、以下に埋め込んでおきます。

 

ブルーノの変身シーン(YouTube↓)

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対比的に描かれる主人公"ぼく"の変身シーン(YouTube↓)

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でもTF界隈的には前者の方がウケがいいと思うんですよね!
ネズミ姿になってからの行動は主人公の方が可愛く見えます。
さておき、このあと主人公はおばあちゃんと協力して魔女は撃退します。
もう一度言います。

 魔 女 は 撃 退 し ま す 。

なぜこんな言い方をするのか。
多くのTF物語を読んできた我々は知っているはずです、TFはいずれ解除されるもの、そういう結末が用意されやすいもの。故に同人誌やアンソロジーでは元に戻れないENDのものが多発するし、『美女と野獣』の終わりに納得ができないわけです。
ここまで書いたらわかると思いますが、
主人公は人間に戻ることなく物語の幕は下ります。
もともとネズミ化してからも人語が喋れるのでコミュニケーション的には問題ないんですが、寿命的に問題が出ます。
すっごいシニカル。しかし前向き?に捉える主人公。
私に取ってなかなかの衝撃作でした。
ご機会あれば是非手に取ってみてください。私はとても好きなんです。