変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

性病のように獣化する『亜獣譚』

どうも、夏休みをとったので調子こいてます。
最近は第五人格っていうゲームで遊んでるんですが、Dead by Daylightの監修が入ってるだけあって楽しいしシビアだしPUBG同様がっつり楽しめてますね。
ハンターの中にも元サバイバーと思われる記述のあるやつがいたりして(初期ハンターだけど)なかなか業の深さがヤバいゲームです。
関係ないので別のトコでお話ししたいところ。

そんなわけで、追う者と追われるものが共に人間から発生するこちらをご紹介。
今気付いたけど裏サンデーってpixivのタグに直リンクしてんの?怖くない?

urasunday.com

既にご存知の方もいるかもしれませんが、非常に面白いのでこの度取り上げました。
江野スミさんのtwitterもパンチが効いてて良いです。ジュラパのフィギュアとかで遊んでるの素敵。

twitter.com

ざっくりとご紹介。
世に「害獣」と呼ばれる異形の獣がいる世界、その「害獣」は「害獣病」を発病したもの人間である、という世界です。主に性交渉などによって感染するその病気は、感染した人間の体を次第に異形の獣へと変えていきます。その姿は普通の動物とは異なり、どちらかというとモンスターに近く、単眼であったり、触手を持っていたり、骨がむき出しのような姿や、ツノ、翼、多腕などであり、基本的には次第に脳が萎縮する為、言語、知性、理性は失われ、最終的には野生の獣と同じようになります。特に人間を狙う食性とかはないので、森で生きるぶんにはウサギとか食べてるみたいです。
害獣の駆除のために駆除兵がいます。物語はアキミア・ツキヒコというマッチョメガネが森で一人の害獣駆除妨害の少年と出会うところから始まります。駆除を妨害されたアキミアは害獣の攻撃で意識を失いますが、衛生兵の女性ホシ・ソウに助けられ、天国を味わいます(地獄も)。
アキミアは当初から情緒不安定な様子を見せ、ソウが森に入ってきた理由が、弟のホシ・チルを探していることを知ると、激昂しチルを殺すことを明言します(害獣駆除の妨害は公務執行妨害とのこと)。
チルを連れ戻したいだけだと懇願するソウに対し、アキミアはその肉体をねぶるように眺めた後、ソウが結婚してくれるのであればチルを見逃す、殺さないことを誓う、と述べます。
翌朝、赤ん坊の声に気付いたソウがアキミアと共に様子を見に行くと、川に流された半人半獣の天使に似た赤ん坊が捨てられています。しかしアキミアはソウの目の前でそれを刺し殺し、見せしめとします。しかし折り悪く現れた害獣によって二人は樹上に追い詰められ、傷が開き、大量の血を流し始めたアキミアは、ソウにその場で性行為を求めます。
その最中、アキミアは自身が「ヴィエドゴニャ(スラヴ圏の吸血鬼と人間の合いの子、ヴェドゴニヤとも。ダンピールのように死後吸血鬼化する人間のこと。この物語では害獣罹患者の産んだ子供で、見た目が害獣化しない状態のことを指します。ヴィエドゴニャは後述する理由で死後5分程度で害獣化します)」であると告げ、性交渉を行ったことでソウも害獣病に感染したと告げます。逃げることの願いが絶たれたソウですが、結局はアキミアに助けられる形で街へ戻りますが……
というのが最初のストーリー。
この後、ホシ・チルという少年が、彼もまた「ヴィエドゴニャ」であることが語られ、そこではチルが害獣の子供を拾い、育てながら、性愛を向けているような様子が語られます。しかし、その食費のためにと害獣駆除兵士の訓練校に入学したチルは、害獣病に罹患していることを隠している上官に食い物にされた上、育てていた害獣を殺されてしまうことが語られるのでした。

お話の構成が非常にわかりにくいのですが(特に最初)読み始めるとズンドコ読めるし、最初がわからないのはある意味様式美的なモノなのでどんどん読んでしまえばいいのだ!と思いました。
この話はTF方向の話でもあるのですが、害獣が性交渉によって感染し、罹患したら最後不治の病ではあるものの、抑制剤(ヴィエドゴニャの血を人工的に生成したもの、ヴィエドゴニャは体内でこれを生成しているので死ぬまでは害獣化しないようですが、悪化があります)が開発されているため、常用すればひとまず害獣化はしないようです。ただ、害獣病の罹患者は去勢が定められており、かつヴィエドゴニャも必ず去勢されます。しかし害獣病であることやヴィエドゴニャであることを隠して去勢を免れるものもいるなど、割とシビアにひどい世界。
後割とアキミアが嫌な奴というか、情緒不安定かつキ印っぽさがあるというか、サイコパスかソシオパスであり、それが過去のトラウマや愛情の向けたものに対する後悔にがんじがらめにされてるということがわかるあたりで、あ、コイツが主人公だったんだなってなると思います。最初はソウかチルだと思ってました。

次第に変わってしまう自分や家族への不安、人であった名残から起こる悲劇、罹患したことによる恐慌など、性や愛を交えた様々な感情のコンフリクトが見られる良作と思います。
現在は別の主人公の話が掲載されているのですが、いずれもだいぶトラウマっぽくなります。
最新話では主人公の少年が初めて自分を叔父に預けたままの両親を見舞いに行く話が描かれていますが、そこにいるのはもはや人とは呼べないものでした。
そういう、こう、TF的には変身していくまでの恐怖や葛藤、変身する者への畏怖や恐怖、被差別・差別の猜疑心、去勢などにおける自己の剥奪への心理、変身して自己を失うまでの恐怖など、様々な美味しい感情に出会えると思います。
変身後の感情みたいなものにも触れられるので、TFクラスタで可愛いとかカッコイイに変身することに固執しないのであれば、ぜひ読んでほしいところ。

また、あらすじからもわかる通り、上官の男性から士官少年への合意のない性交(上官が害獣感染のリスクのない相手を選んだためですが)や、チル少年が去勢されているがゆえなのか、育てていたオスの害獣との獣姦などの表現もあり、また江野スミ先生が性的マイノリティについて述べることもあるため、そういった側面の話である、と捉えられます。
TFクラスタはどちらかというとマイノリティな人々だったりしますし、そういった意味でも良い漫画かと思います。

ということで、『亜獣譚』でした。
まだ4巻買ってないのだ…買わなきゃ…