変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

現代の『変身ものがたり』渡辺ペコ

どうも、新しい職場で慣れられるかなぁと思いながらのんびり日々お仕事の研修をしています。
ちょっと前の『もふかのポプリ』の更新ご覧になりました?
変身後の躊躇いでお風呂に入れないとか可愛すぎるでしょ…そして尻尾穴開けまくったりとかさ…服…ちょっとあとで項目に更新入れておきますね。

てとこで、今回は『変身ものがたり』です。『にこたま』の広告を見て思い出したのでのんびり語っていきましょう。

まずはいつもの試し読みページ。

と思ったら『変身ものがたり』は試し読みがないんですね。
紹介ページだけはあるようなのでまずそちらを。

www.akitashoten.co.jp


しかたないのでシーモア(私が契約してるからですが)の試し読みをば。

www.cmoa.jp

個人的には『ランダバウト』好きなんですよね。ジュブナイルとか学園もので空気が悪くなってる感じ、嫌いじゃないから。あと『1122』と『にこたま』はレディコミだと思ってないで一度読んでもいいと思います。

というのもですね、この渡辺ペコさんという作家の方は、生々しいくらい如実な人の心理や心境というのをぶつけてきます。綺麗事で済ませない話を出してきて、そして綺麗事で終わらせない。絵柄の爽やかさ、軽やかさと裏腹に非常にキツいテーマできます。

『変身ものがたり』は八つの短編集からなる変身譚です。
ざっくりどういう経緯で何に変身するかを書き出します。
「平成人魚」ある日突然現れた人魚と名乗る女性、彼女は確かにある少年が昔助けた人魚だった。彼女は人間社会並みに色々と進歩している人魚の世界に別れを告げ、あの時の少年の元へ向かう。人魚→人間。
「狼少年」アトピーに悩む主人公(男子高校生)はある日「どうせなら綺麗な毛皮だったらいいのに」と思い込んだ折に身体が変化していることに気付く。アトピーを気にせず走り回る楽しさで公園を駆け回った後、戻るところを女子高生に見られてしまい…人→狼(四足歩行)で最後は不可逆です。
「したのうえ」主人公はある朝楽しい夢を見たな、と思いながら起きると、口の中で舌がくるくるピチピチと音を立てながら回転していた。話すこともままならないながら、彼女はマスクをして会社に出かけていく。ポリープを取るので、取ったので、と誤魔化すが…変身というよりは状況の変化です。
「毒りんごパイ」母親とソリの合わない主人公(女子大生)。食事に行くことになった折、友人の男を連れて行くことにする。母はあなた好きだったわよね、とりんごのパイを持ってきていて…こちらも状況の変化、上記のものより全然柔らかいです。
「毛玉」同棲中の彼女が身体中から毛が生える病気になった。次第に毛の量が増え、小さくなって行く彼女。最後には小さな声がする目玉だけになってしまう…人→毛玉。ちょっと不気味。
「はらの顔」主人公の腹にはずっと顔のようなあざがあった。ある日そのあざは話しかけてきて…人面疽のような話。
「黒い人」出版社に勤める主人公。ある日残業中の夕飯の買い出しに出かけると、都市伝説のはずの黒い人に遭遇する。しかし彼は主人公の名前を呼ぶのだった。人→文字。ホラーだけど切ない。
「変身不全」最初のお話の元人魚と男の生活の話。勃起不全に陥っている彼には悩みがあった…勃起を変身と言っていいのか。いいんでしょう。男の人にとってある種切っても切れない一つの本性をさらけ出す事象だものね。

 

といった感じで、全てのエピソードが何かの変容を扱っています。
もちろん我々的には「狼少年」が一番グッときちゃうのはどうしようもないのですが、それ以外も少女漫画やTLコミック、あるいはレディコミとはちょっと違った日常にある静かで波の小さなネガティブな感情と、それによって次第に引き起こされる大きな波のようなものを描く作家さんだと思っていて、それがなんとも魅力的何ですよね。
私は庄野潤三の『プールサイド小景静物』とか好きなので、こういうノスタルジックで重みのある話が好きなんでしょう。
「狼少年」が最後に狼から戻らないで、彼女を待つ選択をした時に、彼は今後どうなるのだろうということに長い時間思いを馳せていたことを思い出しました。
あまり元サヤだったりハッピーエンドだったりしないところがいいのかもしれません。

ということで、『変身ものがたり』でした。