変身譚録

人が何かに変身する作品について話してみる

三田村信行の優しいTF入門児童書たち『ぼくが恐竜だったころ』『オオカミ男のクリスマス』etc

例えば同人誌やpixivなどで、同じ系統の作品を書き続けている人には出会えます。TFしかり女体化しかり特定ジャンルしかり。しかしながら商業流通のある漫画や小説ではどうでしょうか。広義では同じ系統であっても、特定要素が高確率で絡む作家さんを探すのは少し難しい気がします。

そんな訳で、私は三田村信行氏を紹介したいです。
私の中では随分大きい部分を占めています。小学校入学後くらいまで、図書館で読んで印象深かった書籍は、のちに調べると三田村信行という名前が多くあったためです。以下はその内容を覚えている限り述べてみます。

タイトルに上げた『オオカミ男のクリスマス』は、人間社会に馴染めず、仕事もオオカミ男の発作で自我を失ってしまう(というか四つ足の狼化する)とクビになり(その間出社できないもんね…)、また新たに就職するも繰り返す、と非常に悲しい性を持ったオオカミ男が、ある少女との出会いを経て、犯罪組織と戦うことになる話です。オオカミ男にはある目標があったり、オオカミになってしまう理由が「哀しくなること」だったりと、なかなか他では見ないタイプのTF作品だと思います。

最終的に少女とも長く交流を持つことがない終わりだったと記憶しているのですが、先日所蔵していた図書館に出向いたところ、当時読んだ三田村氏の本が全て除籍扱いになり、キツネのかぎやシリーズのみになっていました…悲しい。

参考に表紙だけですがamazon貼っておきます。

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また昔々に百貨店の古物市(なんてものが今現存していないであろうと気付いてちょっと青ざめました)で手に入れた『ウルフ探偵 まぬけな死神事件』というウルフ探偵シリーズの一冊も非常に心惹かれました。こちらはとても良い、直感的な表現のなされたTF表現があります。
こちらもまずはamazonを。

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この探偵さんは顔つきからウルフと呼ばれている前提なのですが、実際に狼男です。そしてそのTFシーンは大体以下の通り。うろおぼえですけど。

「私は服を脱ぎ捨て、両手をついて頭をぐっと上げた。荒々しい血が身体中を駆け巡り、全身に力がみなぎる。私は唸り声を上げた」

これがほぼテンプレートで、収録話の中で何度か変身を行います。ちゃんと服を脱いじゃうとこが好き(笑)目の前に相手がいる時もあって、呆気にとられてるんじゃないか!?とか思いますね。

しかしながら事件の全貌はどこか哀愁を感じるものばかり。豆をぶつけられたくない鬼とか。
再就職した暁には全シリーズ購入できたら…と思ってるんですけど、本棚圧迫されそうな量出てますね。

 

『ぼくが恐竜だったころ』は、タイムスリップと肉体変容あたりの要素です。
SF的なあらすじをざっと掲載すると、恐竜好きな主人公に怪しげな博士から「その目で恐竜を見られるチャンスがあるぞ」とそそのかされ、恐竜に変身する薬とタイムスリップによって6500万年の世界に行くストーリーです。もともと人間の主人公が恐竜の生活に馴染めるはずもなく、次第に変身した恐竜たちの生活に溶け込んで行きます。その中で親しくなった女の子の恐竜を現代に連れてきてしまうのですが…その終わりは大変切ないです。
博士は恐竜遊園地的なものに本物の恐竜を置くために研究させられており、またやらせた会社の人はその研究を買い上げるような話だった気がします。この辺あやふやなのですが、権利を独り占めされることに嫌気がさした博士が、主人公の他にも何人か恐竜にして送り込まれていました。こういった話にはありがちなのですが、最終的に6500万年前の世界から戻ってこられない人たちが発生します。
こういう厳しめの展開と切なさが、子ども心には辛いと好きのコンフリクトを起こしてなかなか気持ちが荒ぶりました。特にティラノサウルスがヤバいんです…。

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他にも
『鬼にされたおとこ』
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オオカミ少年の夜』

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など、三田村作品にはとにかくTF要素を含むものが多いです。

また少しズレるのですが、『ねこのネコカブリ小学校』シリーズの1冊目、もしかしたらご存知の方もいると思うのですが、ぱっくり先生という先生のお話が収録されています。ねこの小学校に背が高くて硬い毛をし、大きな口でまるでねこたちの頭をぱっくりと食べてしまいそうな先生がやってきます。同時にねこの街に遠吠えがするようになり…というお話です。
こちらはTFではありませんが、必死にねこになりすまそうとするぱっくり先生(文脈から察してください)の哀愁が感じられます。

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と、このような具合で、三田村作品は

・他者から見た強者としての生物と、本人の感じる孤独(ジレンマ)

・孤独からの脱却とその挫折(報われなさ)

・アプローチされた者が後になって感じる強者の孤独(切なさ)

を非常に推してきます。
児童書とはいえ侮れない、TFの要素に欠かせない要素がこれでもかと盛り込まれています。絶版本もありますが、もし機会があれば是非手に取って欲しいです。